プロテーゼの破損は起こりうる危険
過去のプロテーゼで非常に多かったトラブルがこれです。当時はまだプロテーゼそのものが発展途上であり、耐久性や強度の検証も充分ではなかったのでしょう。そのため術後10年ほどしてプロテーゼが劣化し中身が漏れ出したり、自動車事故のような強い衝撃や航空機内の気圧差によってプロテーゼが破裂する、というような事故も実際に起こっています。その後、こうした点は改善されていますが、経年劣化やそれに伴う破損は、やはり避けて通ることはできません。
バストの中に挿入されたプロテーゼは、長い間に少しずつ劣化し、変質していきます。そのためある程度の年数が経つと、特に衝撃を受けたりしなくても破損し、中身が漏れ出す可能性が高いのです。
現在使われているプロテーゼの多くは、そうした事態になっても危険が少ないように配慮されています。内容物として生理食塩水を用いて体への悪影響を抑えたり、コヒーシブシリコンを使って体内へ漏れ出すのを防いだりと、さまざまな工夫がなされています。
ですが、だからといって「無害である」とは言い切れませんし、体にとってそれが好ましいことであるはずもありません。
プロテーゼはここ10年ほどの間に、実にさまざまなものが登場しては消えていきました。内容物にしても同様で、生理食塩水やCMC、ハイドロジェルなどが次々に登場してきました。それらはみな「安全性」「高耐久性」をうたって登場しましたが、それらのうちのいくつかは安全性に対する疑問が発せられたり、抜去や入れ替えを推奨する声が高まっていたりと、問題提起がなされています。現在使用されているプロテーゼにしても、10年後にどのような評価がなされるか、その時になってみなければ判りません。それが現実なのです。
プロテーゼの破損と中身の漏出、それによる健康被害。それは今でも完全に解決されていない、大きな問題なのです。
プロテーゼが破損してしまったら?
プロテーゼは決して半永久的に使えるものではなく、その寿命は十数年といわれます。それを超えて使用していると、破損の危険は加速度的に高まってきます。
プロテーゼが破損してしまうとどうなるか? たとえば過去に広く使われていた生理食塩水バッグなどでは、中身が漏れ出してバストがしぼんでしまいます。そのため見た目にも明らかな変形が起こります。生理食塩水の場合は健康への悪影響は少ないのですが、漏れ出した生理食塩水は急速に体内に吸収されてしまいますから、バストも急速に変形してしまいます。
同じく、「CMC」や「ハイドロジェル」などの名称で過去に広く用いられてきたプロテーゼは、比較的破損しやすいといわれており、さらに内容物が健康に与える悪影響についても懸念されています。実際にどの程度の発生率で、どのような健康被害が起こるのか、その具体的な内容は明らかではありません。決して誰かが隠しているわけではなく、信頼できるデータや症例が充分でないために、どのようなトラブルが起こるか判らないのです。
このような危険と隣り合わせでは、安心して手術を受けることなどできないでしょう。また現実に、こうした危険を心配して「プロテーゼを抜いて、脂肪注入をしてください」という女性が私のクリニックを訪れています。プロテーゼを抜去し、その結果小さくしぼんでしまったバストに脂肪を注入して、あらためて豊かなバストを形づくるのです。
多くの女性たちにとって、劇的なバストアップ効果が得られるプロテーゼ法は非常に魅力的な方法に見えることでしょう。ですが手術直後の状態が半永久的に続くわけではありません。その後の経過にも注意しておかないと、手術後数年も経ってから「こんなはずでは…」と後悔することになってしまいます。
自分が受けようとする治療の内容としっかり理解し、メリットとデメリットを把握したうえで手術を受けるようにしていただきたいものです。
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